マーケティングの基本②
2020.01.10
前回の末尾において、「マーケティング・リサーチ
(市場調査)によって集めたデータも、分析し、
答えを出さなければ意味がない」旨述べました。
そして、その分析手法には「マーケティング環境分析」
とよばれるものがありそれは、「内部環境分析」と
「外部環境分析」に分かれます。
「内部環境分析」は自社分析であり、
「外部環境分析」は競合分析、顧客分析、
マクロ環境分析に分かれます。
そして、マーケティングというものが、
単なる市場調査ではない、販売のための手段ではない、
究極は「だまっていても売れる仕組み作り」
にあることをご説明いたします。
■3つの要素の外部環境分析と自社の状況を把握する内部環境分析
前述のとおり、「外部環境分析」は競合分析、
顧客分析、マクロ環境分析に分かれます。
競合分析では、ライバル社の市場に目をやります。
同時に、自社の市場をどのように守るかを考えながら、
競合企業の戦略、ヒト、モノ、カネなどの
経営資源の状態を把握し、売上高、市場シェア、
利益額などを精査していきます。
顧客分析は、言うまでもなく製品やサービスの
購買対象である顧客を分析することです。
具体的には、購買層、地域構成、
購買場所・理由、適正価格などを分析します。
これらに対して、マクロ環境分析は、
企業を取り巻く外部環境の中で、
企業自身がコントロールできないものを対象にします。
具体的には、人口構成、経済成長率、景気動向、
産業構造、技術革新、法律・税制改正、
自然環境、物価などが分析対象となります。
こうした外部環境分析に対して、
自社がどのような状況にあるのかを的確に把握するために、
内部環境分析たる自社分析を行います。
これは、競合分析のベクトルを自社に向けたもので、
自社の経営戦略をはじめ、経営資源の状態、
売上高、市場シェア、利益額などが対象となります。
■市場を細分化して分析する
各種分析も、闇雲に行えば良いというものではありません。
特に、消費者を分析する場合は、
いくつかのグループに分ける必要があります。
その中で、最も効果の高いグループに的を絞るのです。
消費者を特性で分けたら、なぜその製品・サービスを
購入するのかを、考えるべきでしょう。
つまり、市場を細分化しグループ分けしたら、
目標となる市場を選ぶターゲティングを実施します。
そして、標的となる市場を位置決めするポジショニングを経て、
Product(製品戦略)、Price(価格戦略)、Place(流通戦略)、
Promotion(プロモーション戦略)などの、
各種戦略のマーケティング・ミックスを実施するのです。
細分化する場合も、社会経済的要素、地理的要素、
心理的要素、購買行動的要素などが基準となります。
社会経済的要素では、年齢、性別、家族数、収入、
職業、教育水準(学歴)、宗教、人種、国籍などが考慮されます。
地理的要素では、地域、人口規模、人口密度、気候などがあげられます。
心理的要素では、ライフスタイル、正確などが該当します。
特に、ライフスタイルは大きく注目される要素です。
まさに、その人の生き方、行動の仕方といったもので、
性別、年齢、職業などが、以前ほど重要な意味を持たなくなった現在、
それに代わる細分化の要素として注目されています。
購買行動的要素では、使用頻度、
ブランドロイヤリティなどが対象となります。
特に、ブランドロイヤリティについても、やはり注目度の高い要素であるとされます。ブランドロイヤリティは、ある消費者が特定のブランドを愛好し、継続的に導入する心理を指す言葉です。ブランドロイヤリティが高まると、そのブランドは継続的に購買され、指名買いが増え、企業は独占的な市場を得ることができるのです。
元々は、明確な理由があって同じブランドを買い続けていたはずですが、ある時点から一種のブランド信仰が走り出して、マーケティングにおいて大きな意味を持つようになったのです。
こうしたブランド信仰は、以前は主にファッションや高級品の分野で顕著でしたが、現在は食品や下着類に至るまでブランドにこだわる傾向が強くなっています。まさに「消費の総ブランド化」が叫ばれているといっても過言ではないでしょう。
■標的となる市場を選ぶ「ターゲット・マーケティング」
ここで、企業が市場に対してとる
マーケティング戦略をおさらいしてみます。
だいたい、4つに分類できます。
まず、相手を選ばずすべての消費者にアプローチする
「マス・マーケティング」があります。
これは、大量生産、大量販売を目的とした企業が行うものです。
それに対して、少量生産、個別販売を目的としている場合が
「ワンツーワン・マーケティング」を実施します。
そして、この両者の間において企業がとることができる戦略が
「製品差別化」です。
品質やブランド、デザイン、付帯サービスなどで差別化をすることで、
他社製品とは違う特徴をお客さまに強調して、
不毛な価格戦略を回避しようというものです。
最後に、製品ではなく「市場」を区別、市場細分化を行い、
標的となる市場に的を絞って、
効果的なマーケティング・ミックスを行う
「ターゲット・マーケティング」があります。
「ターゲット・マーケティング」では、
市場細分化のステップの後、
どの市場を標的とするかを決めます。
これを「ターゲティング」と呼びます。
「ターゲティング」には、
無差別型、差別型、集中型の3つの方法があります。
無差別型は、一つのマーケティング・ミックス
(Product〈製品戦略〉、Price〈価格戦略〉、
Place〈流通戦略〉、Promotion〈プロモーション戦略〉)で、
すべての消費者にアプローチしようとするものです。
これに対して、差別型は各セグメントに応じて、
それぞれに適切とされる
マーケティング・ミックスを考え実施するものです。
そして、集中型は、ごく少数のセグメントだけに集中して
マーケティング・ミックスを展開し、他のセグメントは無視するというものです。
■標的となる市場を選ぶ「ターゲット・マーケティング」
前々回、市場では、シェアの大きい順に
①マーケット・リーダー、②チャレンジャー、
③フォロアー、④ニッチャーと続くことを説明しています。
そして、アサヒのドライビールを例にとり、
市場において、マーケット・リーダーのポジショニングに
成功したことを説明しました。
ここで、復習します。
マーケット・リーダーは、
そのシェアの維持がマーケティングの目標となります。
チャレンジャーは、
マーケット・リーダーに競争を仕掛け、シェアを拡大します。
しかし、フォロアーは、無理な拡大路線は歩まず、
安定をはかりながら無難に推移していこうという戦略をとります。
ニッチャーは、シェアは小さくとも
独自の地位を築くマーケティングを実践します。
この分類に注目し、自社はどの位置にいるのか、
そしてどのような戦略を選ぶのが最適なのかを明確にすることで、
それぞれの顧客満足につながる仕組みを構築することができるのです。
こうしたポジショニングを踏まえ、
自社に適したターゲット市場の選択を考えることができます。
マーケット・リーダーやチャレンジャーの場合、
細分化された複数のセグメントにおいて、
かなり多数にわたって
マーケティング・ミックスを展開することができます。
特にマーケット・リーダーは、
すべてのセグメントをカバーできます。
これに対して、フォロワーは、
細分化されたセグメントのなかからいくつかを選び、
そのどれにも適するような
マーケティング・ミックスを考えなければなりません。
さらに、ニッチャーは、選択の余地がなく
、単一のターゲットを狙うしかない
集中型マーケティングを実施するのです。
■市場のトップに立たなければ利益は上げられない
マーケット・リーダー、チャレンジャー、
フォロワー、ニッチャーとあるなかで、
経営学者のドラッカーは、
「市場でナンバー1かナンバー2でなければ、
利益をあげることは難しい」と言っています。
例えば、わが国の自動車業界でナンバー1でも
ナンバー2でもないスズキが利益をあげているのは、
インド市場や軽自動車市場でナンバー1、
ナンバー2の地位を確保しているからです。
これをニッチトップと呼びます。
大きな市場でトップに立てなければ、
市場(ニーズ)を細分化していき、
その中でトップを目指すのです。
それでもトップになれなければ、
さらにニーズを細分化していきます。
それをトップに立てるまで繰り返すのです。
たとえ小さな市場でもトップに立たなければ、
利益を得られないからです。
一般的な認識に基づいて、
市場全体を対象にしてはいけないのです。
そして、漠然とナンバー1やナンバー2になる目標を
掲げてしまいがちですが、具体的ではないのです。
それでは、市場全体に潜んでいる
強いライバルに対して競争優位性がなくなってしまうのです。
やはり、競争優位性がでるまで市場の細分化を繰り返すのです。
自身が市場のナンバー1かナンバー2になるまで、
とことん市場を区分けするのです。
絞り込まれた事業だと利益の優位性も確保できるので、
自然とトップ企業になり、利益を出すことができるのです。
ちなみに、蓮舫参議院議員が2009年11月13日、
民主党政権下に内閣府が設置した事業仕分けの
文科省予算仕分けの際、「仕分け人」として
次世代スーパーコンピュータ開発の予算削減を決定した際
「世界一になる理由は何があるんでしょうか?
2位じゃダメなんでしょうか?」が話題になりましたが、
次世代スパコンは、2位でもダメなんですね(笑)。〈Wikipediaより〉
■町内の餅菓子屋を考える
ここで、いわゆる「ごひいき」を考えてみましょう。
例えば、ひな祭りや端午の節句、
お彼岸などの季節には、「ああ、〇〇屋の桜餅が食べたい」
「□□堂の柏餅が恋しい」
「△△庵のおはぎをお茶請けに買っていこう」などと、
それぞれに、なじみの和菓子屋さんがあると思います。
こうした和菓子屋さんは、
セグメントに成功した好例なのではないでしょうか。
「それぞれの家庭の中でナンバー1の和菓子屋」
という地位を確保し、
季節になれば必ず決まった商品を購入してもらえる。
こうした「ごひいき」を確保することで、
企業は安定した利益を得ることができるのです。
まさに、各家庭の単位まで市場を細分化した結果、
「佐藤さんのお家では〇〇屋」「鈴木さんのお家では□□堂」
「田中さんのお家では△△庵」という
ナンバー1の地位を確保したのです。
もちろん、建設会社の専属下請ならともかく、
町の和菓子屋の「ごひいき」が1軒だけでは話になりません。
何百軒、何千軒と集まってこそ、企業として安定していきます。
■自動的に売れる仕組みづくりがマーケティングの極意
マーケティングは顧客から考えるビジネス思考です。
そして、マーケティングは販売に関わるものに限定されません。
例えば、GE(ゼネラル・エレクトリック社)では
「技術者が設計図を引く前からマーケティングがはじまる」と言われています。
マーケティングが、販売をはじめ、流通、アフターサービス、
商品開発、生産日程、在庫管理においても主導的な役割を果たしているのです。
この考え方が理想的なマーケティングの姿なのです。
よく誤解されるのが、マーケティング・リサーチ
=マーケット・リサーチというものです。
前述の経営学者・ドラッカーは、
「マーケティングは、マーケット・リサーチを超える」と言っています。
マーケット・リサーチは、すでに市場にあるものしか調査することはできません。
しかし、マーケティング・リサーチは、
ニーズを作り出すためのあらゆるリサーチを対象としているのです。
「売れる仕組み作り」に必要な市場からの情報すべてが、
マーケティングの対象だからです。
一般的には、現状の市場調査からニーズを知り、
売り手の視点で販売促進を行いがちです。
それでは、単なる後追いになり、
その場限りになってしまい、効果が最も小さいのです。
しかし、まず顧客ニーズを知り、そのニーズに応え、
新しいニーズを作り出すきっかけを調べることから始めます。
そして、そのために自社の強みを知り、活かしてこそ、
独自性がある、長期的に売れる仕組みを作り出すことができるのです。
前述の和菓子屋も、意識的に各家庭のニーズを探り、
そのお家にあった味であり、デザインを開発したのでしょう。
それが、多くの人々に支持され、長年にわたって評価されれば、
いわゆる「伝統」という名前に昇華していくのです。
「伝統」は、だまっていても売れる仕組みの一種であり、
ブランドでもあります。
そして、自動的に売れる仕組みづくりがマーケティングの
極意であるとことを証明しているもののひとつなのではないでしょうか。
株式会社 躍進 代表取締役社長笠井輝夫
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